田浦の週末住宅とわたし
田浦の週末住宅のことを書こうと思います。
約10年前にご自宅を設計させていただいた施主からの久しぶりの電話が2014年の春にありました。
当時私は、体調を崩していて突発性難聴で退院したあとで耳鳴りがひどく、設計をできる状態ではなかったのですが、あまり急がないし、まだ土地も購入してないからまた連絡しますということでした。
そして、はじめて敷地を訪れたのは2015年。
私が何も言わず、だまって見ていたので、ご心配されたのか、施主には、「尾越さん、感動薄くないですか。」と言われたのですが、実はそうではなくあまりの自然の美しさに言葉を失っていました。神様がここには舞い降りてくるのではないかと思ったほどでした。同時にこの美しい土地に、事務所を開設したばかりの私が、何ができるだろうとプレッシャーを感じていた瞬間でした。
さて私は、2014年から二年間京都造形芸術大学の大学院通信教育で木造建築を学んだのですが、ちょうどM1の過程が終わったばかりでした。当時の課題で箱根傾斜地に立つ別荘の課題を終えたばかりでしたので、その模型をお見せしました。こちらです。
この課題も森の中に佇む別荘でしたので自然に寄り添いながら建物自体も力強いものでないとならないと思っていました。
森の中の別荘というとバイブルのような吉村順三氏の作品がまず頭をよぎりました。また箱根ということ(冬は雪が積もる)、傾斜地であることから一階をRCでしたのですが、この作品を施主にお見せしたことがきっかけで、現在の田浦の週末住宅の正式な依頼となりました。ただし、まだ土地は購入していないし急がないし、体調も見ながらゆっくりでいいと神様のような施主のお言葉に涙したことを思い出します。
振り返ると懐かしいです。先述の学校では、横内敏人先生、伊藤寛先生、堀部安嗣先生、退官された三澤文子先生に教えていただいたのですが、ここでの学びが現在の私の礎になっていると思います。主婦で奥様でゆるーく働いていた私の建築細胞を目覚めさせてくれました。
しかし、今見ても敷地のパワーにやはり絶句してしまうと思います。素晴らしい土地との出会いでした。