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大人になってから学び直すということ~大学院(建築)編

 今からちょうど10年前の2013年秋、私は京都造形大学(現・京都芸術大学)の大学院に願書を出しました。この大学院を選んだ理由は、いつか独立する日のために、木造住宅をしっかり学び直したいと思ったからです。

 

 日本を代表する憧れの住宅建築家が先生となり、少人数制のゼミのような形で指導してくださるのも魅力でした。雑誌の中で拝見するだけだった憧れの先生が直接指導をしてくださることは、私にとって実に幸せな時間に思えました。それから半年後の4月に入学。入学した時、4つのグループがありました。東は、伊藤寛先生、堀部安嗣先生。西は、三澤文子先生、そして私の担任をしてくださった横内敏人先生でした。

 

 私の期は、わりと若い人が多く、20代から60代までいて、男女比は3対1くらい。出身地は広く全国各地から、春の京都に集っていました。みんな、おじさんおばさんになってもまた学びたい!という熱意のある方ばかりで、顔にしわはありますが、心は少年少女といったところでしょうか。

 月1回、愛媛から京都まで通うことになった私は、ただのおばさんから学生証のあるおばさんになりました。(一度だけ学割で映画を観たことがあります。あの時の受付の男の子の不思議な動きはよく覚えています。)当時のことは今でもよく思い出しますが、とにかく必死でした。周囲のサポートのおかげですが、同時によくできたなとも思います。そして、本当に行ってよかったなと思っています。

 通学初日、私は2泊3日で、車と新幹線を乗り継いで出かけました。京都だから、帰りにあのお寺を見たいなとか、桜がきれいだろうなとか、ほぼ観光気分で様々なことを考えていました。が、現実は厳しく…。

 授業を終えて愛媛に帰る頃には、もうパワーが残っていなくて、それからはだいたい1泊2日になりました。行きは飛行機。伊丹経由バス利用で前日入りして、余裕のある時は、前日に展覧会を見たりして、夜はホテルの近所で簡単に夕食を済ませ、明日の授業に向けて再チェックと作業。翌日、朝から晩まで授業を受けた後、新幹線とローカル線を乗り継ぎ、毎回くたくたになって0時すぎに松山に到着するという生活でした。合間にレポートの本を読み、実はこの時ダブルスクールだったのでその課題にも追われ、平日はその当時請けていた住宅の設計をしていました。しかし、スクーリングの日だけではなく、中間で帰ってくる先生からの赤ペン添削を見る時は、まるでラブレターを読む少女のような気持ちでした。そして先生にラブレターの返事を書くような気持でエスキースをしていました。(今は、図面は施主と工務店へのラブレターだと思い、たくさん書いています。)

    一番楽しく、そして苦しかったのは、半期に一度の合同合評会。4グループの2学年M1.2が、夏は京都、冬は東京に集い、同じ課題に取り組んだ違う人の設計の発表を、朝から晩まで拝聴します。この日の発表のために、半期がんばるのです。若いか年寄りか、男か女かとかそういうのは全く関係なく、与えられた時間を使って、コンセプトからデザイン・設計・構造の考え方、1/50の模型など、自分はどのように課題に取り組んだか、どんなことを考えているかを発表して、先生方のご意見を拝聴します。同級生の考え方を聞くことも、とても勉強になります。なるほどこの人は、こんな風に解くのかとか、このやり方はうまいなとか、●●さんは、模型が秀逸だなとか、××さんのプランは明快で楽しいなとか、△△さんの構造の架構は美しいな…などなど。五感を研ぎ澄ませ、全精力を集中させる時間でした。

 もう一つ、楽しかった授業は、先生方が実際に設計された住宅を拝見する講義でした。1泊2日でバスを貸し切り、その空間に身を置くことで、おこがましいですが、先生の世界とシンクロする感覚になり、こういうことを考えて、ここは苦労なさったのだなとかいろいろ想像でき、一番大好きな授業でした。

 最後に忘れてはならないのが、同級生と、上の期・下の期の方の存在です。この日本で、いろいろな学び直しをする場所があるのに、同じ時期に同じ環境で学ぼうと、偶然に机を並べたことは、すごい奇跡の出会いだと思っています。近頃は、なかなかこの集まりにも伺えていませんが、みんなとは今でもFBでつながっています。彼らの投稿に「いいね!」をするとき、●●さんがんばってるのね。私も元気よ。マイペースでがんばってるよ。あの時赤ちゃんだったお子さんは、もう小学生なのね。と、いろいろな思いをこめてエールを送っています。SNSの存在はありがたいです。

 

この場をお借りして、お世話になった先生方・同窓生の方々に「私と出会ってくれてありがとうございます。これからもよろしくお願いします」とお伝えしたいです。

 学ぶこと、変わろうとすること、努力することに、年齢や性別や環境は関係ないと思います。そして、同窓生の活躍には心から賞賛の気持ちを、あの人にもあの人にもお送りしたいです。また先生方のことも、SNSや雑誌で拝見するたびに、あの日の時間を思い出し、胸がきゅんとなります。先生方が修了の時かけてくださった言葉は、今でも私の心の中の宝物です。

 

 みんなに幸あれ!  私も目の前の仕事を地道にがんばろうと思っています。

2023/11/24